No border ~雨も月も…君との距離も~
*・゚゚・*:.。..。.・゚・*:.。. .。.・゚゚・*

シンが 病院に戻った時には、もうすでに消灯を過ぎて 夏香との面会も 夜間入り口で 断られてしまう時間だった。

仕方なく…長く直線に伸びる 暗い廊下に目をやると、
そんなシンに 気づいてか 長椅子から 品の良い夫婦が腰を上げた。

光沢のあるコートを腕にかけた 白髪混じりの男性は、シンを待っていたのだろう…ずぶ濡れのシンの前に立ちはだかり、ジッと顔を見つめて そのまま 黙って…シンの頭の天辺から 足の爪先にまで その視線を這わせた。

「 あの………。」

シンの言葉を遮るように 男性は口を開く。

「 君は……どこまで 娘の人生を翻弄する気だい?」

彼の 物静かに話す声が 廊下に響き渡る。

「 ………………。」

「 私たちにとって、大切に……大切に育ててきた一人娘なんですのよ。」

男性の隣で 同じく品の良い女性は、必死で シンを見つめた。

よく見ると 顎のラインから唇の形……夏香に似てる。

「 娘は……お前のような男のために、自分の命まで投げだそうとして……。」

夏香の父親の拳は 微かに震えている。

「 これまでだって 私たちの反対を押し退けてまで…あなたの事を 支えてきたはずよ……。

女子大を辞めて……あなたのマネージャーとして、支えたいって。」

「 ………………。 すみま……せん。」

「 バンドのボーカルだがなんだか知らないが……君は娘をどう 思っているんだね。」

夏香の父親の声に、深くて強い想いを感じる。

「 こんなに 娘が苦しんでいるというのに……君は 娘の側に居てやることすらしないのかね。」

「 あなたは 娘の気持ちに答えることは 出来ないのかしら……。

あの子は……あなたの事を 誰よりも思っているのよ。

誰よりも……きっと。」

「 このまま……娘の足が動かなくなったら、君は責任をとってくれるのかねっ!」

「 ……………それは…… 」

「 私たちでは ないんだよ……。悔しいけれど。

娘を救えるのは……娘が望んでいるのは……悔しいけれど……

君しか……いないんだよ。」
< 245 / 278 >

この作品をシェア

pagetop