No border ~雨も月も…君との距離も~
「 お願いです………。

娘の気持ちに 答えてあげてください。

夏香は……あなたの為なら、死んでもいいとまで…そこまで言っているんです。」


シンは唇を ギュッと…噛み締める。


誰かの為に……存在する命なんてない。

けれど……誰かの為に 存在したい。

誰かの為に、生きていたい。


誰かの為に……?

俺は、誰の為に 存在するんだろう。


今の……俺に、正常な判断はできているだろうか…。

答えが……正しいかなんて 分からない。

ただ言えるのは……

確かなのは……

俺の為に……死んでいい人間なんていない。

夏香も。

息をし始めたばかりだった お腹の子も。

俺の為に、死んでいいはずがない。


「 夏香さんの……側に いますから。

僕のできる限りの事はします。

彼女を悲しませないように……できる限りの事はするつもりです。

だから……

泣かないで…ください。」

「 お願い……あの子を幸せにしてあげてください。

あの子には、あなたしかいないから……。」

夏香の母親は、まるで濡れ鼠のようなシンの両腕に触れて……大粒の涙を流す。

いかにも お金持ちそうな 二人が まだ何一つ手にしていない……頭から ずぶ濡れの男に懇願する姿に胸が痛くて……申し訳なかった。

こんな俺に 何が……出来るだろうか。




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