No border ~雨も月も…君との距離も~
Dーカクの メジャーデビューが華々しく告知されると、音楽雑誌は勿論の事…ファッション雑誌、ティーン雑誌の見出しの一角に “ DNAーカクテル ”のロゴが並んだ。

女性週刊誌の見開きには 半年前よりも、一層…芸能人らしくなったシンの姿が、まるで ハイブランドの専属モデルかのように 写し出されていた。

グッと……カメラを見つめるシンの瞳は、力強く……見る人を 吸い寄せて 逃がさない 鋭い棘を忍ばせている。

どこか……色っぽくて、危なっかしい。

取って喰われそうなのに……どうして、そんなに繊細で 消えそうなほど 綺麗なんだろう。


ママは、私の代わりに雑誌に目を通す。

「 やっぱ……♡ カッコいいよねぇ。

人気、出るよね~。これはぁ…… 」

「 ママっ。仕事、してくださいって~(笑) ホラっ!」

「 渋谷駅ジャックだってぇー! 駅の柱が Dーカクだらけになるらしいよぉ。
そんでね……大型ビジョン ジャックもっ!
事務所、頑張るぅーーーー!」

「 分かりましたってぇ~!はいっ。おしまい。
仕込みです!!(笑) 」

「 …………ねぇ。」

ママは ゆっくりと私の方を見る。

私は 仕事に集中しようと…ワザとそんなママから目を逸らす。

「 今日の日替わり……付け合わせ、ほうれん草の煮浸しでOKですか……?」

「 ……ねぇ。 本当にいいの? こんなままで…。」

ママの目が 寂しげに私を捉える。

「 ママってばっ!」

私の少し強めの口調に ママは週刊誌のページをパタンと閉じた。

「 は~~いっ。仕事しま~す……。」

私は 雑誌をブックラックに片付けると…ママに少し笑ってみせた。

忘れられる…わけがない。

けれど、私はこんな方法でしか 上手に生きられない。

シンの幸せだけを願って……

私は……私の道を 歩くしかない。

ママが 勝手口を出て行くのを確認して、そっとラックに手を伸ばす。

ページを開いて……



シンに ……逢えた……。




少し口角を上げて、微笑む彼に ドキッとして 愛しさが 込み上げる。

忘れられる……わけがない。

その時、

お店の電話が鳴る。

ママが 慌てて走り寄る 気配を感じて、私は急いで雑誌を元の場所に戻して……涙を拭った。

ママには 見られたくない。

きっと……心配してくれるから。




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