No border ~雨も月も…君との距離も~
「 紗奈ちゃん、ニュータウンの方に デリバリーなんだけど……私より 紗奈ちゃんの方が詳しいかなと思って……。頼めるかな?」

「 たぶん、行けば分かると思います。大丈夫ですよ。」

「 …………ただ……。
シン君と 住んでた家の近くだと思うのね……。

平気……かな……。」

「 (笑)
もう……半年近く、そっちの方へは行っていないから…建物が増えて 新しい町並みになってるかもしれないけど、何となく わかるはずです。」

「 うん。いやぁ……そういう意味じゃなくて…… 」

「 ママ、シンとの事は 私が自分で決めたことなんですよ。
大丈夫です。
後悔なんて……していないんです。」

ママは “ うん、うん ”と 首を縦にふりながら……私に優しく笑いかけて それ以上は 口をつぐんだ。



後悔なんて……してないなんて……嘘。

ただ ママに嘘をつくことに、後悔をしていないのは 本当。

ママに本音を言ったら、強がりの仮面が きっと剥がれてしまうから…

心配してくれるママに 甘えてしまいそうだから。



*・゚゚・*:.。..。.・゚・*:.。. .。.・゚゚・*

新築の棟上げ。大工が5~6人働く現場に 弁当を届けた。

見慣れたはずの町並みが…半年前からずいぶん変わった様子を 眺めながら、ゆっくりと車を走らせた。

デリバリー専用の 小さな軽四は ニュータウンと旧タウンの境目にさしかかる。

この細い坂道を上がったら、シンの家があった。

小さな自動車整備会社の看板を外して、内装だけは人が住めるようにした 塗装が錆びた トタン壁の家。

外から見ると、かなりなクラシック感漂う一軒屋だった。


なんだか……

シンと暮らしていたことが……

ここへ 帰って来ていた自分が……

夢だったような気がして、現実じゃなかったような気がして……

私は 思わず…その坂道へアクセルを踏み込んだ。


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