No border ~雨も月も…君との距離も~
いつしか、雪は止んで 黒く流れの早い雲の破れ目から、月が出たり 消えたりする。

ケホッ。

はぁ……はぁ……。

咳き込んだり、深く吐き出してみたり……

自分の、息が 騒がしい。

目の前には ashの機材車が 停められている。

私は、膝を抱えて 顔を埋める。

少し……

泣いて いいかな……。

ふと、そう思った時 頭の少し上から 勝手口の開く音と、階段を降りる足音が 近づいてきた。

「 みっけた。」

シンは、フッと息をつくとジャケットのポケットに両手を突っ込んで、私から二人分ほど離れた場所に 自分も壁に背中を這わせて しゃがんだ。

「 泣いてる?」

「……泣いてない。」

「 怒ってんの? 」

「 ………………。 」

シンは、片方の手をポケットから出して アスファルトに混ざる 小石を摘まんで…ピッと投げる。

「 怒らせたの、俺? 」

「 しか…いないじゃん。」

「 ……ごめん。 」

「 男の人に謝られて、いいことなんて……
たぶん、ひとつも無いよっ。」

私は、膝に埋めた顔を もっと深く沈めて シンとは逆に 首を向けた。

「 怒らせたなら 謝るよ。」

シンの サラッと謝る態度に、もどかしくなる。

私には……そんなに簡単に許せる内容ではない……はず。

「 子供……できたって、カオリちゃんが……。」

声が 詰まる。

「 私……何も、言ってあげられなくて。
どうしていいか……分からなくて。
今度も、また……おめでとうって、言えば……
それで良かったのかな。」

2度目の……おめでとうは

心が 嘘をつきすぎてる。

私は 立ち上がると、こっちを見上げるシンに言葉を投げつけた。

ー これって、不倫してた罰なのかなっ!ー

ー 神様が 私に用意した罰?そうなのかなっ?ー

シンに向かって……全部 吐き出して、ぶつけて…罵倒してやろうかと思った。

でも……シンの目力に、あっさり負けて 口を継ぐんで背中を向けた。

「 ねぇ…、紗奈。」

機材車のボディーに、立ち上がる シンの姿が 映る。

「 一人にして……。」

「 聞けよっ。」

シンの手が 私の手首を掴む。

「 一人にしてって、言ってるじゃんっ!」

その手を 振り払おうとするが、思った以上に 力強くて……

振り払えない。

「 聞けってっ!」

「 泣きたくないからっ!…だから、放してっ!」

声を荒げる 私に 、シンの手は ますます力がこもる。

「 黙れってっ!!」

シンの手首のアクセが、車のボディーに カツーンと触れたかと思うと……彼は私の両腕を押さえ込んだ。

そして、その唇が 私の唇を塞いで 続きの言葉を止められた。
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