No border ~雨も月も…君との距離も~
「 ……なら、歌ってよ。 私の為に歌ってよ!!」

夏香は、シンの腕を引っ張る。

廊下で 事務所の後輩が、なんだか ただ事で無い空気を感じて、軽く頭を下げてすれ違う。

「 シンは、私の傍にいるって言うけれど…… 」

夏香は 後輩に聞こえないように……小声で 喉を詰まらせながら、シンを真っ直ぐ見つめる。

「 愛してる……とは言わない。

好きだよって……言ってくれないっ!! 」

「 ……夏香……。」

シンは、夏香の手を そっと外す。

「 今日の 夏香……おかしいよ。
やっぱり、家に帰った方がいい…疲れてるんじゃね。」

「 4年も……4年も立つのに、シンは私を 一度も見てないよっ!

紗奈ちゃんを見ていた目で……私を 一度も見てない……見てない……よ。」

「 落ち着けって……。」

紗奈…… その名前に、締め付けられる。

4年も前なのに、置き去りの心に 気づいてしまう。

仕舞い込んだ 気持ちに 苦しくなる。

シンは 興奮ぎみに声を震わせる夏香を抱き寄せる。

「 今日は……帰れよ。」

シンの肩で 夏香の力が抜ける。

抱きしめられて…少し冷静になる。

「 こんなので…炎上するんなら、俺が付けなければいいんじゃね。」

シンは 手首のブランド物の ブレスを外す。

「 なっ!(笑) 」

「 シン……。」

夏香は 少しオーバーに片足を引きずると シンの背中に抱きついた。

体重をかけて、身体を委ねる。

「 お願い。 傍に……いて。」

お願いっ、

私の 傍に……いて。
< 260 / 278 >

この作品をシェア

pagetop