No border ~雨も月も…君との距離も~
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「 はいっ!カットーーーー! お疲れ様でしたぁ。」

監督の声が 響くと シンと翔平は カメラや照明、スタッフのあちらこちらに 頭を下げる。

カットの声にホッとして 素の顔に戻る。

化粧品のCM。

控え室に戻ると、すぐに次の仕事への移動準備。

鏡を見ながら 自分で髪を整え直すシンに翔平は声をかけた。

「 なぁ……シン。
俺、この間 一日だけオフが あってさぁ。金沢、帰ったんだよね。」

「 えっ! マジでぇ。 言えよぉ~。
俺も行ったのにさっ!! 」

「 いやぁ。お前、単独でイベントだった日だよ。
皆も それぞれ仕事があった日。」

「 しばらく…てか、帰ってねぇーなぁー。金沢…。」

シンは、鏡を見つめながら…故郷に懐かしく想いを寄せた。

けれど……

その想いを無理に振り払うように、ワザと手元のスマホに視線を落とす。

帰る場所なんて……無い。

帰る場所なんて、どこにも無い。

懐かしさと切なさに、面と向き合えない自分がいた。

「 タクの 墓参りに行って来た。」

「 ……そっか。 タクの墓参り、三回忌以来だな。
しかも、その日も他とは別で…ライブの移動の途中とかで、バタバタしてたしな。」

タクと一緒に……ここまで走ってきた。

登り詰めて来た。

ライブのたびに、成功祈願と、“ タク…一緒にステージに立とう ”…… そう言って 手を合わせてきた。

気持ちはいつも一緒だけれど…金沢へは帰れない 多忙な日々を振り返る。

「 そこで……偶然、彼女に会った。」

「 …………ん?…… 」

シンは 鏡越しに翔平を見る。

「 紗奈ちゃんに 会った。」

「 ………………。」

シンは動揺を隠せず……近くのパイプ椅子に足の小指辺りをぶつける。

「 ……痛っ! いっ……てぇ~っ! 」

いつもなら そんなシンを 突っ込んで面白がる翔平だが…今日は真顔で、一歩近づく。

「 そっか……元気だった?」

動揺を見せまいと 軽く……笑う。

「 うん。 変わってない……。
けど……大人の女性になってた。」

「 …………(笑) そっか。」

そんな二人の やり取りを耳にして、夏香は 控え室の扉を静かに閉めて、入口のパーテーションの陰に身を潜めた。

「 あの頃より……いい女になってた。」

「 ……お前が言うと、なんかイラつくっ!(笑) 」

「 (笑) 」

「 (笑) 」

「 …………てか、子供…連れてた。」

シンの スマホをいじる手が止まる。

「 ……そっか…。 結婚したんだ。」

視線を スマホに戻す。

無駄にスクロールする親指。

「 ……俺たち、この4年……止まることなく走ってきたよな。 とにかく目の前の夢に がむしゃらに 突き進んできた。

タクと一緒に……。

息つく暇もなく…そして これからも、前へ…。」

「 ……ああ……。それが正解なのか それすらも、もう、分からないくらい…
前しか……見ないようにして 突っ走ってきた。」

「 俺たちだけじゃなかった……。

紗奈ちゃんも鈴ちゃんも……止まることなく走り続けていたんだなっ……て。」

「 そうなんだ……。そうだな。」

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