No border ~雨も月も…君との距離も~
「 ずっと、幸せになって欲しいと 思ってた。
できるなら……カオリが言ってた 世界一好きな人と 一緒にね。」

「 ……シン……。」

シンは 私の顔を覗き込んで すごくいい顔で笑う。

彼は……きっと心から 彼女の幸せを喜んでいる。

そんな、顔。

けれど……

私には わかる。

カオリちゃんの 涙……。

ずっと 好きな人?

世界一 好きな人?

それは……

お腹の子が 誰の子であれ……カオリちゃんの流した涙は、カオリちゃんが呟いた言葉は……本物だと感じる。

“ 私、何でシンと別れちゃったんだろう。”

私には わかるよ。

たぶん……

ずっと好きな人。 世界一 好きな人は……シンのことだよ。

……と 思う。

私って ズルい………。

それを 黙っていることは ズルいこと?

カオリちゃんの 涙を、シンは 知らない。

つい さっきまで……まだ 間に合う、まだ引き返せる……と 思ってた。

恋は 人を ズルくする。

もう……引き返せない。

シンが もし…いなくなったら、私はひどく傷ついてしまう事を……今、知った。

シンの唇に、独りになる怖さを 知った。

こんなに 好きだと気づいてしまったら、同じくらいに……

失う怖さを 思ってしまう。

私は、その怖さから逃れたくて……守って欲しくて……

シンの背中に もう一度…腕を回して 力を込めた。

細い月が 、雲から半分だけ顔を 覗かせていた。

ナンシーは、きっと……殺されたことに これっぽっちも 怖さなんてなかったのかもしれない。

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