No border ~雨も月も…君との距離も~
1章 恋。 香る恋。
ー5年前ー 石川県 金沢市
恋をしていた。
してはいけない……恋をしていた。
「さーーなぁーー。帰ったらダメだかんね。」
鈴ちゃんは、そそくさと 帰りかけた私の 首根っこを引っ張って、元いた 硬いベンチに座らせた。
19時を過ぎた頃から チラホラと人の出入りが
始まる ライブハウス。
平日は、ライブよりも スタジオでの バンド練習に集まる人が殆どである。
硬いベンチ…長椅子に腰掛けて ギターを弾く人、床に ぺしゃんと座って 両膝を叩いてリズムを取る人。
タバコを 片手に 仲間と談笑するバンドマン達は
この平日の ぼやんとした空気が よく似合う。
今日のシフトは、20時あがり。
交代の鈴ちゃんが、タイムカードを押したり
スタジオ表をチェックしている隣で 私は、まだ帰らずにいた。
……というか 帰れずにいた。
「紗奈、逃げれないからね!」
わかってるよーーーーもぉ。(涙)
鈴ちゃんは、強めの口調で 手を動かしながら 私を見る。
「わかってますぅーーーー。」
彼女に手招きされて、受け付けカウンター横の汚い階段にリュックを肩から掛けたまま座る。
クセで、座るとスマホチェック。
「で。どうなったの~。 あの話。」
「どう……って……。」
私は、携帯越しに 鈴ちゃんを 上目遣いで 気まずそうに見る。
「夢の国……。行くの? 行かないの?」
「夢の国……だからね。ディズニーだからね。」
「ソコぉぉ? そこ違うでしょ。そう言う意味じゃなくて……。」
鈴ちゃんは、は~っとため息をつきながら、
小銭をいくらか突き出した。
「おごってあげるわぁ……。」
「(苦笑) ありがと。」
私は、ぴょこんっと 勢い任せに 立ち上がると
出入り口の扉を開けてすぐの 自販機の前に
立った。
ガコン……ガコン
と鈍い音。
2本の缶コーヒーを 手探りで 探ると、一本ずつ
胸に抱えた。
長い説教になりそうだなぁ…………。
外は そろそろ 冬に 向かう頃。
長いため息が 白くなる。
「で。 ……どーーすんのっ?」
鈴ちゃんは、缶コーヒーを 一口 飲んでは その缶を
左右に振りながら、階段の隅に まるで 怯える子犬のように うずくまる 私を、ちょっと 面白そうに見る。
「まだ……返事してないよ。」
私の言葉が 終わらないうちに 鈴ちゃんは、声のトーンを上げる。
「ほらぁーー。やっぱりぃ~。」
「だってさぁ。一応……好きな人と 行きたい所へ
一緒に 行きたいって 思うの……普通だよね。
少しでも一緒にって 思うじゃん。
しかも 夢の国……だし。」
「普通はね。……ホントにそう思ってる?」
「……思ってないよ。」
私は、鈴ちゃんから 目を 逸らした。
鈴ちゃんは ため息混じりに 受け付けの 少し高めのカウンターチェアに、きちんと座り直すと
ベリーショートの 髪をクシャっと かいて、
私を睨んだ。
「そんなんで いいの?奥さん もうすぐ 赤ちゃん
産まれるんでしょ。」
「わかってる。」
「夢の国なんて 一緒に行ってしまったら
離れられなくなるって……そう言ったの 紗奈じゃん?!」
私の彼氏は……いわゆる 不倫だった。
3つ歳上。
12月の 始め頃には、奥さんに 赤ちゃんが 産まれる。
「だいたい…。調子良すぎんだよね。
アンタの男。
女を何だと思ってんのっ。
子供つくっといて……別の女と何やってんの?
紗奈も 紗奈だよ……。
奥さん……今が 一番 幸せを 感じなきゃ いけない時期なんじゃないの?」
「うん……。きっと、そう。」
そうだよね。 わかってる。
本当は……好きかなんて よく分かんなくて。
ただ誰か。
ただ誰かの 傍にいることで 、少しだけ 恋に恋している自分から 現実を生きているように 思えた。
人を好きになることに 臆病になっていた私に 彼は自由で……。
初恋が……終わった後のセカンドラブは、恋に 傷つくことが 怖かった。
あの頃の 私は、傷つかないように……自分を守りたくて、 心に入り込まれる ことからスゴく 避けていたように思う。
それだけ 純粋で……それだけ歪んでいた。
だから……ストレートに 上辺だけの関係は、
気楽だった。
ただの ワガママ とも言う。
彼は、調子の良い事を 言って……調子良く 私を
上げてくれて……強く本当の私を求めない。
「妊娠中だから、産まれるまでの SEXの 穴埋めだよ。」
鈴ちゃんは、ザクッと 真実を 突き絶てて
バッサリ 私を 切り捨てた。
SEXの穴埋め……なんて、
とてつもなく 卑猥で、残酷な言葉に 傷ついているのは もちろん 私の方なんだけど……鈴ちゃんを
不快にさせてしまっていることに、なぜか 申し訳なく思ってしまう。
私の為に、イラついてくれる 鈴ちゃんを有り難く
思う。
恋をしていた。
してはいけない……恋をしていた。
「さーーなぁーー。帰ったらダメだかんね。」
鈴ちゃんは、そそくさと 帰りかけた私の 首根っこを引っ張って、元いた 硬いベンチに座らせた。
19時を過ぎた頃から チラホラと人の出入りが
始まる ライブハウス。
平日は、ライブよりも スタジオでの バンド練習に集まる人が殆どである。
硬いベンチ…長椅子に腰掛けて ギターを弾く人、床に ぺしゃんと座って 両膝を叩いてリズムを取る人。
タバコを 片手に 仲間と談笑するバンドマン達は
この平日の ぼやんとした空気が よく似合う。
今日のシフトは、20時あがり。
交代の鈴ちゃんが、タイムカードを押したり
スタジオ表をチェックしている隣で 私は、まだ帰らずにいた。
……というか 帰れずにいた。
「紗奈、逃げれないからね!」
わかってるよーーーーもぉ。(涙)
鈴ちゃんは、強めの口調で 手を動かしながら 私を見る。
「わかってますぅーーーー。」
彼女に手招きされて、受け付けカウンター横の汚い階段にリュックを肩から掛けたまま座る。
クセで、座るとスマホチェック。
「で。どうなったの~。 あの話。」
「どう……って……。」
私は、携帯越しに 鈴ちゃんを 上目遣いで 気まずそうに見る。
「夢の国……。行くの? 行かないの?」
「夢の国……だからね。ディズニーだからね。」
「ソコぉぉ? そこ違うでしょ。そう言う意味じゃなくて……。」
鈴ちゃんは、は~っとため息をつきながら、
小銭をいくらか突き出した。
「おごってあげるわぁ……。」
「(苦笑) ありがと。」
私は、ぴょこんっと 勢い任せに 立ち上がると
出入り口の扉を開けてすぐの 自販機の前に
立った。
ガコン……ガコン
と鈍い音。
2本の缶コーヒーを 手探りで 探ると、一本ずつ
胸に抱えた。
長い説教になりそうだなぁ…………。
外は そろそろ 冬に 向かう頃。
長いため息が 白くなる。
「で。 ……どーーすんのっ?」
鈴ちゃんは、缶コーヒーを 一口 飲んでは その缶を
左右に振りながら、階段の隅に まるで 怯える子犬のように うずくまる 私を、ちょっと 面白そうに見る。
「まだ……返事してないよ。」
私の言葉が 終わらないうちに 鈴ちゃんは、声のトーンを上げる。
「ほらぁーー。やっぱりぃ~。」
「だってさぁ。一応……好きな人と 行きたい所へ
一緒に 行きたいって 思うの……普通だよね。
少しでも一緒にって 思うじゃん。
しかも 夢の国……だし。」
「普通はね。……ホントにそう思ってる?」
「……思ってないよ。」
私は、鈴ちゃんから 目を 逸らした。
鈴ちゃんは ため息混じりに 受け付けの 少し高めのカウンターチェアに、きちんと座り直すと
ベリーショートの 髪をクシャっと かいて、
私を睨んだ。
「そんなんで いいの?奥さん もうすぐ 赤ちゃん
産まれるんでしょ。」
「わかってる。」
「夢の国なんて 一緒に行ってしまったら
離れられなくなるって……そう言ったの 紗奈じゃん?!」
私の彼氏は……いわゆる 不倫だった。
3つ歳上。
12月の 始め頃には、奥さんに 赤ちゃんが 産まれる。
「だいたい…。調子良すぎんだよね。
アンタの男。
女を何だと思ってんのっ。
子供つくっといて……別の女と何やってんの?
紗奈も 紗奈だよ……。
奥さん……今が 一番 幸せを 感じなきゃ いけない時期なんじゃないの?」
「うん……。きっと、そう。」
そうだよね。 わかってる。
本当は……好きかなんて よく分かんなくて。
ただ誰か。
ただ誰かの 傍にいることで 、少しだけ 恋に恋している自分から 現実を生きているように 思えた。
人を好きになることに 臆病になっていた私に 彼は自由で……。
初恋が……終わった後のセカンドラブは、恋に 傷つくことが 怖かった。
あの頃の 私は、傷つかないように……自分を守りたくて、 心に入り込まれる ことからスゴく 避けていたように思う。
それだけ 純粋で……それだけ歪んでいた。
だから……ストレートに 上辺だけの関係は、
気楽だった。
ただの ワガママ とも言う。
彼は、調子の良い事を 言って……調子良く 私を
上げてくれて……強く本当の私を求めない。
「妊娠中だから、産まれるまでの SEXの 穴埋めだよ。」
鈴ちゃんは、ザクッと 真実を 突き絶てて
バッサリ 私を 切り捨てた。
SEXの穴埋め……なんて、
とてつもなく 卑猥で、残酷な言葉に 傷ついているのは もちろん 私の方なんだけど……鈴ちゃんを
不快にさせてしまっていることに、なぜか 申し訳なく思ってしまう。
私の為に、イラついてくれる 鈴ちゃんを有り難く
思う。