No border ~雨も月も…君との距離も~
シャークは 体格のいい黒人だった。

シンの腕…2本分くらいの 二の腕には、ここからは はっきり何が描かれているのか見えにくいけれど、肘辺りまで ぎっしりとタトゥーが入っている。

シャークが ターンテーブルを擦るたびに、音と音が混じり合い デジタル画像の照明が忙しく変わる。
スモークがホール 一面に立ち込めて 踊る人々のテンションを上げる。

これから……踊り明かす 夜。

ここには、まだ 始まったばかりの 夜があった。

「 あいつがシャーク。 カオリの彼氏だよ。」

「 あ………。うん。」

シンは ジャケットのポケットに 手を突っ込んだまま、少し興奮した目を シャークに向けた。

「 シャーク……かっけぇ~。
こんな ちっこいクラブに置いとくの もったいないよ。
いつか……ashにフューチャリングして欲しいなぁ~ なんて。(笑) 夢、かな。」

また………

何でも 許してしまいたくなるような……子供みたいな表情を見せるシン。

「 ……ねぇ、シン。
カオリちゃんのことだけど………。」

「 だから……(笑) 俺の子じゃないって。(笑) 」

「 ううん。そうじゃなくて……
カオリちゃん……まだ、好きだよ。 シンのこと、
……好きだよ。」

何で……こんな事、言ってんだろ。 私。

私……シンを 試してる?

たぶん スゴく好きだから……

シンを離したくないくせに、離したくないから…こんな 際どい事を言って シンを 試してる。

「 ………(笑) 知ってるよ。」

優しくて 甘い……

そんなシンの 話す声は、どんな言葉も 歌うように
しなやかで 心地よい。

「 ………………。」

「 知ってるよ。カオリは、始めっからシャークと戻る為に 俺と付き合ってた………。」

艶っぽい瞳と、泣きボクロは 私を不安にさせる。

「 意味………分かんないよ。」

さっきまでの、安心感が……分からなくなる。

シンは 不思議。

「 でも………。でも、一緒に住んでたじゃん。
まだ1度だって、私を 家に入れてはくれないくせに……。カオリちゃんとは住んでたじゃん。」

意味が分からないついでに……スネてみた。

「 ………………。嫉妬……してんの? 」

曲のボリュームが 上がった気がする。

人々の 歓声のレベルも上がる。

シンの 笑いながら話す口元からの声が、かき消される。

いつもの 切れ長の目が キュンと垂れて…微笑む
シンの顔が 好き。

彼は 、私を後ろから抱き締めると……
七色の光が映る壁に そのまま 寄りかかった。
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