No border ~雨も月も…君との距離も~
「 クリスマス プレゼント。」

シンは、音に負けないように 私の耳元で囁くと…ポケットから取り出した 左手を、ヒラヒラさせた。

「 何……?」

彼は 私の身体を自分の方へ向けると、手のひらに 小さな鍵を置いた。

「 家の鍵。 俺の傍に……いてよ。」

「 ………………えっ…。」

ヤ………バい。

泣きそうに………なる。

指まで隠れる 大きめのブルゾンの袖………。

思わず息を そこで調節する。

不安とか……

自信ないとか……

カオリちゃんの事とか……

もう……

………どうでも いいのかも。

私、そういえば……自分の複雑な想いばかり気にしていて……シンに「 好き 」だという気持ちを きちんと 伝えていないような気がする。

ちゃんと 伝えなきゃ。

「 シン……。私、シンのことが 好きだよ。」

「 えっ?何……聞こえないっ!(笑) 」

「 だから……私、シンのことが……… 」

ていうか……。あからさまに、イタズラ笑いの
シン。

「 何?(笑) もう一回、言えよっ!」

「 言わな――――い。(笑)絶対、言ってやんね。
(笑) 」

シンは、シャークが スクラッチする 音の混じり合いの中で、私を もう一度 腰から 抱き寄せると、鍵を持つ手を絡ませ キスする体勢に首を傾けた。

アルコールと照明に酔う、人々の波は……他人がどこで絡もうが ……………寛大。

シンのタイミングで、私も目を閉じようとした時 瞼の隙間で 見覚えのある白いニットコートが、ひるがえったように感じた。

「 ………待って……。 」

「 ぁあ? 何っ? 」

目を開けて 気の抜けた顔で、覗き込む シン。

「 ね。 少しだけ、待っててくれる? 」

「 はぃ……?」

私は 白いニットが消えた、女子トイレに続く廊下に視線を向けて “ おあづけ ”のままの シンを置いて小走りに コートの主を追った。


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