No border ~雨も月も…君との距離も~
5章 RISING SUN
夜中の雨が 通りすぎる音に、耳を澄ませる。

一人で眠っても ちょうどよい シングルベッドで、私は丸くなる。

なんとなく……シンの変わりに抱き寄せたクッションから、うっすらと シンの香りがする。

冷たい雨の音。

きっと……こんな夜は 何もかもが 冷たくて、凍える。

だから……

シンを 抱き締めたい。

私は、そのクッションをギュッとする。

シンの変わりに ギュッとする。

神様は……イジワルで、思い通りに 愛しい人を傍に置いてはくれない。

好きになりすぎないように……。

2人が壊れてしまわないように……。

ちゃんと、距離をつくる。

私とシンが 同じ場所に帰るようになって……

毎日の「 おかえりなさい 」を言ってあげられるようになったのに……

彼の日常は 付き合う前より忙しくなって、私は触れあうことのできない スレ違いの生活の中……一緒に居ながらも、シンのいない脱け殻の部屋に温もりを探していた。

けれど……

温もりを探した分……

もどかしい分…… 幸せを感じることができる。

朝日がすごく 待ち遠しいから。

「 ずっと シンを待ってた。 」

そう呟いたカオリちゃんの気持ちが 分かる。

私も、同じ。

まだ薄暗い 早朝 5時半。

出勤の準備をする私の元へ、シンは帰ってきて
ドカジャンとネックウォーマーを脱ぎ捨てて

私を 抱き締めてくれた。

「 おかえりなさい。……シン。」

「 ただいま。…………行っちゃうの…。」

「 ……行かなきゃ。」

警備員の夜は長くて……弁当屋の朝は早い。

シンは 私が出掛けた後、朝昼兼用の食事をして午前中に眠って……午後過ぎからガソリンスタンドでバイト。

午後9時から BIG4で、スタジオ練習。

そして……深夜、彼は また凍てつく雪の中 警備のバイトへ 駆け出して行く。

夢のため……。

真っ直ぐ。

彼の背中に、希望が沢山 見えた 気がしたから 私は
“ 行かないで……”を言わない。

「 いってらっしゃいっ!」と笑う。

まだ、朝日が昇りきらない 早朝。

このまま……

キスしたまま……

もう一度、ベッドへ戻って……

仕事を休んでしまおうかと思うけど、

私も、

シンも

結構……マジメだったりする。(笑)

< 41 / 278 >

この作品をシェア

pagetop