No border ~雨も月も…君との距離も~
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PM9:00 BIG4

私が立つ、カウンターの前で 夏香さんがシンに詰め寄る。

「 シンにさぁ。歌詞を書いて欲しいの。」

「何? 翔平が書いてっじゃん。」

ペットボトルのキャップを閉めつつ……シンは前髪の隙間から 夏香さんの視線を探す。

「 ラブソングって……なぜか ボーカルが書いた方が売れるの。
しかも、コテコテの日本語で。」

「 てか。俺、日本語しか書けねーし。(笑)」

「 わかってるわよ。そんなの。」

「 あぁ……ですよね。(苦笑)シレッと言うよなぁ~。」

額に 縦線が入って見えるシンに目もくれず、淡々と続ける夏香さんが面白くて 吹き出しそうになる。

「 翔平って、ほぼ 英語歌詞だし……しかも応援ソング的なのが主流でしょ。
シン、歌 ほぼ英語なのに……よく歌えるね。」

「 マネージャーのくせに……俺のことバカにしてねぇ~(苦笑) 」

「 まさか。 褒めてるの。
得意でしょ。 女子うけの……ラブソング。」

「 何? なんか……棘ぽっいし……。」

「 私が東京にいた間も、さぞかしモテたそうで。
昨日も、一昨日も……女の子が色々、ここに来て、シンに 会いたいって。
私にまで 突っかかってくるし。」

「 誤解……だって。(怯) 」

「 まっ、それは……さておき 今回の新曲、春にオープンする結婚式場のCMに起用されることになったの。」

夏香さんは、カウンターの上の紙束を トントンと揃えて ドヤッとばかりに シンを睨んだ。

「 来週までに ヨロシクね。
それから……シンのファンの子って ちょっと強烈な子が多いっていうか……。
中学生、高校生って多感だから気をつけて。
少し話しただけでも 想いが募っちゃうのよ。あの子たち。」

真顔になる夏香さんを見ると 金沢でのashの人気は、私たちの知らない間に 広がりつつあることを実感する。

「 それから、毎晩女の子 連れ込んでるって……。
もちろん、ウワサだよね。」

シンと私は 同時に固まる。

「 あたりまえじゃん。なんだよぉ、その情報。
……あっ。それより夏香、少し髪 切った?」

なんて……(汗)

誤魔化すのが…ヘタクソすぎて 不自然に声が裏返るシンに、私も動揺して カウンターの ペン立てを倒してしまう。

私たちの秘密を 拡散するかのように バラバラとカウンターから……ボールペンやマジックがそれぞれに散らかった。

私とシンは 同時にしゃがんで、それらに手を伸ばして 拡散を防ごうとする。

「 前髪……切ったの かなり前 ですけどっ!」

「 はっ……はは……。(苦笑) 」

なんとなく…私もシンも 笑って誤魔化す。
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