No border ~雨も月も…君との距離も~
「 大丈夫だよ……。ここ、私が片付けるから。」

「 あの子達でしょっ!今、擦れ違ったっ!!
ぜーーったい、そうっ。」

鈴ちゃんは…私の肩越しに、信号待ちをする彼女たちを 睨んだ。

今にも…突っかかって行きそうな 鈴ちゃんを見ると、なぜか自分の気持ちは冷静になる。

「 いいよ。鈴ちゃん…ほっとこっ。」

「 てか……ここだけじゃなくてっ!
駐車場のゴミ置き場も、生ゴミの袋……破かれてて、散らかってるのっ!」

「 …………。そうなんだ。」

鈴ちゃんは、やっぱり悔しさを隠せなくて 交差点を 小走りで渡る2人の背中を 黙って睨んだ。

「 生ゴミ、前日に出すのは やめとかなきゃね。」

「 あの子達よく出待ちしてる子達だよね。
気持ちは分かるけど…こんな事して、
ashや、メンバーが どう思うか わかるはずだよね。」

鈴ちゃんの怒りが 溢れれば 溢れるほど、頭の中が鎮まってくる。

「 ファンのすることじゃ…ないよね。」

鎮まってくる。

ファン…じゃない。彼女たちの中で シンは身近で、とても近くて……きっと好きな人 なんだよね。

だから、刃になる。

彼女たちの方が 傷ついてる。

裏切られた 気がするんだ……きっと。

彼女にとって、私は刃で 毒なんだ。

「 鈴ちゃん、楽屋の方…先に掃除、お願いしてもいいかな。
ここと…ゴミ置き場、私がするよ。」

「 紗奈。 私も手伝う…。」

「 (笑)ありがと、鈴ちゃん。
でも…大丈夫。 今日のバンドのリハ 始まっちゃうし、楽屋 頼むよ。」

「 ひどいよ……。何にも 知らないくせに。
紗奈は そんなんじゃないのに……。
全然…違うことが 拡散してる 。悔しいよ、私。」

鈴ちゃんの目は 少し怯えていた。

少し 潤んでいた。

他人事では ないのだ。

タクちゃんとの事を 考えると…私とシンの事は 特別ではない。

「 死んで……なんて 言われたら ぜってぇーーーー死んでやんねぇよっと(笑) 」

「 紗奈っ……。……もう。」

目を赤くして 少し笑う鈴ちゃんに、もう一度 楽屋の掃除を頼んで、彼女の背中をBIG4の中へと押した。

倒された灰皿に視線を下げると同時に、震えるような ため息が こぼれた。

鈴ちゃんがいてくれて 鎮まっていた感情が、動き出すと 勝手に涙になって こぼれそうになる。

傷ついてる。 やっぱり……

下を向いて ホウキを使っていると 本当に涙が落ちてしまいそうになるのが嫌で、唇を噛みしめて顔を上げると……

そこには 翔平君が立っていた。

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