No border ~雨も月も…君との距離も~
「 紗奈っ……!ash……メジャー、決まったって。」

「 ホントに……?! 」

「 うん、 ホントに…本当。」

「 夢が……叶うの…? 」

「 叶うよっ。夢が…。ashの曲が 全国に 流れるっ!!」

鈴ちゃんの声が 少し震えていて……喜びを抑え切れないのが 分かる。

「 すごい……。(笑) 」

そう言う 私の両手を握りながら…鈴ちゃんの顔は、晴々しい表情から一辺……
たちまち下睫毛に 涙が溜まる。

「 鈴ちゃん……? 」

耳まで赤く染めて 無理に唇を噛んで、涙を堪える親友が 愛しかった。

「 嫌だよ……。紗奈。
私、嫌だよ…………。 」

「 …………鈴ちゃん。」

「 タクも、シンも……私たちだけの 彼氏じゃなくなる……。 」

…………私だけの シンじゃ なくなる…………

空気にすら 刃がある。

やっぱり…私を切りつける。

こんなに 嬉しくて、興奮しているのに、

刃は 鋭い。

鈴ちゃんの 切ない想いが 伝心した。

私は 鈴ちゃんを 思わず抱き寄せて ベリーショートの髪を撫でた。

そして…いつの間にか事務所から出てきた 夏香さんは、そんな私たちに 静かに 強い口調で言った。

「 取り込み中…ごめんなさいっ。
貴方たち 2人、ashのここでのライブスタッフには配置しないことにしたの。
分かってくれるよね。
……とは 言っても、もうBIG4でのライブも数回…ってことになるかもしれないけど。 」

夏香さんは 強すぎる眼差しで 私を睨む。

「 ash、東京に行くから。 」

「 夏香さんっ……! 私……。」

早足で去ろうとする 夏香さんを 呼び止めた後に、何と言ったらよいのか 分からずに、言葉に詰まる。
「 ……夏香さん、 ごめ… 」

「 言ったよね。 私……紗奈ちゃんに。
ashは、私の夢だって。」

彼女の瞳が 刃になる。

「 シンというボーカリストは 私の夢なの。
シンの歌声にどれだけの 価値があるのか、私は確かめたいっ!
どれだけの人を 魅了できるのか……
どれだけ 感動する場所に立つことができるのか…… 。
シンなら できるの……。
私は、知りたいの。もっと上を行くシンを……見たいのっ!」

「 ……ごめんなさい。」

「 お願いっ。ashに水を注さないで欲しい。
その時の…その時だけの 、一時的な恋愛感情の盛り上がりなんかで シンの価値を落とさないで欲しいの。」

私が 謝ったことで 確信を得た彼女は 怒りを爆発させた。


< 67 / 278 >

この作品をシェア

pagetop