No border ~雨も月も…君との距離も~
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私は スマホの待受画面の灯だけを頼りに、ロフトを降りる。

台所で コップに水を入れて 喉を潤す。

静かなワンフロアに、ゴク…ゴク…と喉を通る水の音と、蛇口から落ちる ポタン…ポタン…とリズムをとる水滴が 共鳴する。

夜と朝、その境目に シンの原付きのエンジンが 表に止まる。

私は、大きく息を吸い込んで コップをテーブルに置くと、シンを迎えに玄関に向かった。

「 おかえりっ……。」

「 あれ。起きてたの? 」

夜の終わりと 朝日の混じり合う……途方もなく美しい時間に、私の不安は浄化される。

何かが、少しづつ……変化しようとしていて、

その変化がなければ いけないことを、よく分かっていて……

夢へと、前へと進む変化は いつか……この美しい時間さえも変えてしまう……。

だから……今、この一瞬を大切にしたい。

ヘルメットの顎紐を 取り去ると シンはそれを下駄箱の定位置に置く。

私に両手を広げて……私の好きな笑顔。

そして……私に 心地よい、声。

「 どうした? 」

と、シンは 私を見つめる。

前髪をかき揚げて、メットで潰れた髪を直すシンの肩に桜の花弁が……2枚……3枚降り落ちる。

春を感じた。

「 何?もしかして……逢いたくなってた?(笑) 」

「 …………(笑) 違うって、言えないじゃん。」

私の不安を浄化できるのは……シンだけ。

私とシンは、その場で 抱き合った。

「 メジャー、おめでとう。」

そう言った私に……シンが何を言ったのか 胸がいっぱいで 聞き取れなかった。

ギュッと腕に力を込めて 私を抱き締めるシンの肩で……一粒、涙がこぼれた。

私もシンも、変わらなければいけない事を よく知っていた。

変わってしまう事を……

よく……分かっていた。

だから、その涙を、そっと隠して 笑う。

シン……。
シンは、私のたった ひとつの夢。

私の夢、なんだ。


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