No border ~雨も月も…君との距離も~
「 ………2人して…。
バッカみたい。
私たち………東京行くんだよね。メジャーだよ、ずっと夢だったプロだよ。」

夏香の拳が…肋骨に直で響く。

「 シンは……ashの SIN。
それだけは、忘れないでっ! どこにいたって、誰といたって…シンは、ashのSIN。
そうだよね。」

「 わかってるよ……。」

「 一人でも軽率な行動をすると、バンドなんて……簡単に 壊れるの。」

「 わかってる。」

泣きそうなのか……怒っているのか……苦しそうな表情の夏香は、じっと シンを見つめる。

ashのSIN……

当たり前なのに……今までもそうだったはずなのに、今日は やたらと響いた。


好きだと……思えば思うほど、伝えることができない 想いがある。

好きだからこそ……傷つけたくなくて、誰よりも幸せでいて欲しくて…伝えられない想いがある。

翔平のような…かっこいい男には なれない。

ワガママな自分に情けなくなるけれど、それを無くしたら

ashのSINでもなくて……

幸崎 真(こうさき しん)……

本当の自分でも なくなる気がする。

俺は、俺であって……どこにいても 誰といても、俺でいたい。

ただの ワガママかもしれない。

……情けないほど ワガママだ。

*・゚゚・*:.。..。.・゚・*:.。. .。.・゚゚・*

Aスタの 分厚い防音のガラス窓を拭く鈴ちゃんを横切って…シンが外へと出て行く。

その後を 夏香は 慌てて追いかける。

「 シンっ!どこ行くのっ?」

「 今日は、帰るよ。」

原付きに跨がって メットを着けるシンの前に、夏香が 行く手を塞ぐ。

「 シン……。紗奈ちゃんのこと、本気なの?」

「 ………。何で、そんなこと聞くの。」

「 本気じゃないなら、辞めて。」

うつむく彼女を、シンはメットのつばの奥から強い目力で見つめる。

「 シンのためだったら死ねる……
そんなファンだっている。 」

「 ………まさかっ。(笑) 大袈裟だよ。」

「 シンは、いつだって 都合の悪い事から 目を背けてるっ!
アーティストだ…ロッカーだって言ってるけど、ashは アイドルに近いじゃん。
ファンを 一番に考えてあげて。」

「 そんなの…当たり前にそう思ってるよっ!」

「 ………私。」

夏香の手が シンの左腕の袖を引っ張る。

「 ごめん。ホントは…そんな事より、私が耐えきれないっ!」

「 ………………。」

袖と一緒に手首をギュッと握る。

「 …ごめん。 今日は 帰る。」

原付きのエンジンを吹かす、その音よりも夏香の声が 駐車場に響いた。

「 あの子のところに、帰るのっ!!」

「 夏香………。」

「 私、耐えきれないよ…。自信ないよ。
紗奈ちゃんを 目の前にしたら、私 きっと…嫌な子になってしまう。
シン………助けてよ。」

好きが苦しくて、自信………ないよ。

嫌なヤツになりそうで……怖いよ。

「 シン……助けて。」





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