No border ~雨も月も…君との距離も~
8章 春の目眩
「 ただいま……。」
風呂上がりの濡れた髪を拭きながら、冷蔵庫を物色していた私は 有り得ない時間のシンの帰宅に驚いて 顔を上げた。
「 シン、早かったんだね。スタジオは?」
「あ…………。 うん。」
シンの “ 心、ここにあらず……” の返事に、私はとりあえず、シンと自分の分のビールを 手にとって
彼の背中に ついていく。
「 おかえりっ。何か……あった?」
昔から、嫌な予感だけは……よく当たる。
シンは テーブルに鍵を置くと、ジャケットを脱ぎながら ニッと笑う。
……なーんだ。 びっくりした。
シンの笑った顔に 少しホッとする。
こんなに早くに 練習を切り上げてくる事は、今までに一度もなかった。
「 たまには……いいんじゃないっ!(笑)
……はいっ。」
私は、ビールをシンの目の前に ちらつかせると彼の頬に 冷えた缶を引っ付けた。
「 冷たっ!(笑) 」
やっと シンは、真っ直ぐに私を見た。
嫌な予感を振り払って 笑顔を浮かべる私の腰に、両腕を回したシンは そのまま…ダイニングのイスに、腰掛けた。
私の腹部を……尚も引き寄せて、そして そこに顔を埋めた。
シンの声が 私のスウェットに吸収されて……少し籠る。
「 ……紗奈。 逃げよっか。」
「 えっ……?」
シンは 顎を上げて、やや強引で……それでいて 私に懇願するような 瞳で……
もう一度、繰り返す。
「 ……紗奈。 逃げてよ……俺と。」
甘えん坊が 炸裂しているシンの、子供っぽい表情の裏側……
熱っぽい……男っぽさに、催眠がかかる。
「 ……いいよ……。シンと……一緒なら。」
私は、指先でシンの髪に触れて……抱き留める。
本当に、どこへでも行こうと思った。
シンが、逃げようと言った理由よりも……私が、一番 逃げたかったのかもしれない。
インスタのコメント蘭……夏香さんの志しの強い目が、私を追い詰めて 見下して……
そして……何よりも、
シンの才能に……胸が締め付けられた。
怖かった。
あの歌声に……ドキドキする。
癒されていく……。
けれど……その歌声に 引き裂かれるような気持ちにもなる。
シンを好きになれば なるほど……
愛し合えば 合うほど……
私は、孤立していくような気がした。
深くて……狭い 暗闇の中で シンという、たった1つの光にすがっているような 感覚になる。
彼をもし……失ったとしたら、私は 暗がりの中で
独り……光を失って、動けなくなる。
一筋の光を 無くした時……
私は、私でなくなってしまう気がする。
風呂上がりの濡れた髪を拭きながら、冷蔵庫を物色していた私は 有り得ない時間のシンの帰宅に驚いて 顔を上げた。
「 シン、早かったんだね。スタジオは?」
「あ…………。 うん。」
シンの “ 心、ここにあらず……” の返事に、私はとりあえず、シンと自分の分のビールを 手にとって
彼の背中に ついていく。
「 おかえりっ。何か……あった?」
昔から、嫌な予感だけは……よく当たる。
シンは テーブルに鍵を置くと、ジャケットを脱ぎながら ニッと笑う。
……なーんだ。 びっくりした。
シンの笑った顔に 少しホッとする。
こんなに早くに 練習を切り上げてくる事は、今までに一度もなかった。
「 たまには……いいんじゃないっ!(笑)
……はいっ。」
私は、ビールをシンの目の前に ちらつかせると彼の頬に 冷えた缶を引っ付けた。
「 冷たっ!(笑) 」
やっと シンは、真っ直ぐに私を見た。
嫌な予感を振り払って 笑顔を浮かべる私の腰に、両腕を回したシンは そのまま…ダイニングのイスに、腰掛けた。
私の腹部を……尚も引き寄せて、そして そこに顔を埋めた。
シンの声が 私のスウェットに吸収されて……少し籠る。
「 ……紗奈。 逃げよっか。」
「 えっ……?」
シンは 顎を上げて、やや強引で……それでいて 私に懇願するような 瞳で……
もう一度、繰り返す。
「 ……紗奈。 逃げてよ……俺と。」
甘えん坊が 炸裂しているシンの、子供っぽい表情の裏側……
熱っぽい……男っぽさに、催眠がかかる。
「 ……いいよ……。シンと……一緒なら。」
私は、指先でシンの髪に触れて……抱き留める。
本当に、どこへでも行こうと思った。
シンが、逃げようと言った理由よりも……私が、一番 逃げたかったのかもしれない。
インスタのコメント蘭……夏香さんの志しの強い目が、私を追い詰めて 見下して……
そして……何よりも、
シンの才能に……胸が締め付けられた。
怖かった。
あの歌声に……ドキドキする。
癒されていく……。
けれど……その歌声に 引き裂かれるような気持ちにもなる。
シンを好きになれば なるほど……
愛し合えば 合うほど……
私は、孤立していくような気がした。
深くて……狭い 暗闇の中で シンという、たった1つの光にすがっているような 感覚になる。
彼をもし……失ったとしたら、私は 暗がりの中で
独り……光を失って、動けなくなる。
一筋の光を 無くした時……
私は、私でなくなってしまう気がする。