No border ~雨も月も…君との距離も~
「 すげぇ……キレイ。」

シンはそう言って、私の髪に頬を寄せる。

「 あ……うん。 キレイな コバルトブルー……。」

「 ううん、違うよ。」

「 …………?ん。 」

私は、思わず髪を押さえつつ…デッキの下を覗き込む。

「 ……紗奈のこと、言ってる。」

あ………………。

私は、ゆっくりと シンに振り返る。

自然と笑みが零れた。

照れながらも、今……同じようにシンを見ていた自分に可笑しくなる。

“ キレイ…… ”

美しい彼に言われると あまりにも美しい言葉に
嬉しくなった。

「 ねぇ、紗奈。
俺が 東京へ行くと言ったら……ついてきてくれる?」

そんな瞳で見られると……つい
「うん 」と答えたくなる。

答えてしまいそう……。

「 シン……私、怖いんだ。」

「 ………? 東京が? 都会だから? 」

「 そうじゃない………。」

そうじゃない……。

一緒にいるほど 遠く感じるであろう、東京のシンが…怖い。

「 シン、離れたくないよ。 本当は、こうして……今日がずっと続けばいいって、そう思うよ。」

「 俺は、紗奈とずっと……これからも…… 」

私は シンの言葉を遮るようにして、話を続けた。

このまま シンの言葉を聞いてしまうと、

この恋色の空に負けて………

「 私を 連れていって……」と

口を滑らせてしまう気がする。

「 シン、大好きだよ。
このまま……ずっと私は、シンのことが 大好きだよ。
だから……この気持ちを 大切にしたいから、
金沢で シンの帰れる場所になろうと思う。」

「 紗奈………。」

「 ほら、飛び続けたら、翼を休める場所が必要でしょ。
そういう場所が 欲しくなるでしょ。
私は、シンのそういう場所に なりたいから。」

夏香さんや翔平君……私の知らない所で 何か歯車が動き始めているような気がする。

シンと 一緒にいるために東京へ行っても、

私は きっと……独りぼっちで 取り残される。

シンしか頼るものがない東京で、私は彼のお荷物には なりたくなかった。

「 シン……私は 変わらずに ここに居るよ。
シンが もし東京にイジメられて、泣いて帰ってきたら、傍にいて……笑ってあげる。」

「 なーんだよっ。 ソレ(笑) 」

「 (笑)………また、一緒に逃げてあげるっ!」

「 (笑)………うん。」

私は 胸元のお揃いのチョーカーをシャツの上から握る。

その手を………シンの 手のひらが 包む。

変わらず………

ここに居る。

変わらずに。

「 紗奈と能登へ来て よかった。
ここは、誰も俺のことなんか知らなくて……この海も波も……空さえも………
俺のもんじゃねーかって、思ってしまう。」

「 シンの…ものだよ。(笑)
海も波も空も……ぜーんぶっ!」

「 紗奈も……?」

「 (笑)………うん。
私の 全部。 シンのものだよ………。」

シンは、私の後ろから 肩をまるごと……抱き締めると その腕で 周りからそっと隠すように……

潮風に触れる……甘い唇。

本当は、離れるなんて 考えたくなかった。

本当は、連れていって…と その腕にすがりたい。

岩にぶつかる波音が 力強くて、優しくて……。

能登半島の最先端に 私たちは立っていて……

淡くて……

儚い未来に 誓った。

このまま、ずっと好きだよ……と。

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