No border ~雨も月も…君との距離も~
「 月に…大切なものを奪われてしまいそうで、
怖い……。
俺、夜が終わるまで……紗奈を抱けない。

情けないくらいに ビビってて……
何でだろう。
そんな気に なれなくて、どうしても ダメで。」

「 シン……。 大丈夫だよ。 わかってる…。」

「 俺、病気なんだ。
あの月を見ると……後悔とか、罪悪感とか
嫉妬……とか 全部に殺されそうになる。

そして……もし、紗奈に触れたなら…母さんに悪いことを 叱られてるような気になる……。

それも、相当ひどく 叱られる。」

あなたも…父親と 同じなの?って……

「 シン。 もし……あの月が堕ちてきたら、大丈夫。 私が こうして 守ってあげるっ……。」

私は、両手で シンの両目を塞ぐ。

「 安心して。ホラ……もう見えない。」

「 …………(笑)。」

両目を塞がれたまま……シンは 少し笑う。

「 お母さん……どんな人だったの?」

「 ………ん~。
明るくて、可愛い人……だったよ。」

「 …そう~。」

私は、両手をゆっくり開く…

「 おっちょこちょいで……(笑) 天然で。
料理、へったくそで……まともなのカレーぐらいでさっ(笑) 」

「 (笑) 」

「 でも、弁当の卵焼きは……旨かった。
あの晩も コンビニに卵を 買いに行ったくせにっ……死んだんだ。」

「 …………。 そっか。」

「 紗奈の 卵焼きと……似てた。」

「 ………そうなんだ。 嬉しい………(笑) 」

「 でもさ、ホントのところ……もう あんまし覚えてなくてさ。
俺の中の母さんの卵焼きは……紗奈の卵焼きになってる。最近、そう思う。」

「 私も 食べてみたかったな。
シンのお母さんの卵焼き……。」

シンは、寝返りを打つかのように 身体を横に向けて……私の膝元に顔を埋めた。
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