No border ~雨も月も…君との距離も~
「 ……庇うとか そんなんじゃなくて…。
怒ってるよね、皆。
大事なレコーディングだって事、知ってて…
ごめんなさい。」

翔平君は、いつも優しいから…ほんの少しの投げやりな言葉に すごく反省してしまう。

シンの言葉を思いだす。

……俺、翔平ほど 尊敬する男って いないかもなぁ~。……

しばらくの間と沈黙に、唾を飲む。

「 (笑)ははっ。怒ってないよ…。
まぁ~夏香さんは……ともかく、俺は怒ってない。」

翔平君は、私を見つめるとタバコを唇に加えた。

そして……

「 シンの匂いがする。」

そう言って、グッと鼻先を私に 近づけて私を勝手口のドアへと 追い込んだ。

タバコを 加えた 唇のせいで……声はすごくソフトだけれど……この 柔らかい壁ドンは、

ヤバい。

怒ってるの? やっぱり…怒ってる…?

ドキッとする胸の奥を 翔平君に見抜かれてしまうのでは……と焦る。

「 シンと同じ……匂いがする。」

翔平君は 少し冷えた流し目で 私を見て…それがまた異常に色っぽくて…

2度 繰り返した その言葉が 私を軽視して…もて遊ばれてるような気がした。

私の身体を 上から下まで…這わす視線。

私は、ハッとして…焦りながら 自分の両腕を交互にクンクン 匂いを嗅ぐ。

自分では全く……?

カラアゲの油の匂いしか……しない と思う。

「 翔平君……。 やっぱり 怒らせてごめんね。」

翔平君も、私の言葉にハッとしたのか

「 あ……ぁぁ。ごめんな。 俺、こんなこと言いに来たんじゃないのにさっ。
帰るわぁ~(笑) どうかしてるっ(笑) 」

そう言いながら、彼は 唇からタバコを外して元の箱に戻した。

背を向ける翔平君に、何か言わなきゃ……と慌てる。

「 シンは 翔平君のことを誰よりも 尊敬してるっ…
天才だって……言ってた。
ashは 翔平君がいるから スゴいんだって。

シンは 誰よりも…翔平君のことが 好きなの。」

翔平君は 振り返りながら 顔をクシャッとして…鼻先で笑う。

「 ……(苦笑) 気持ち悪りぃ~よっ!(笑) 」

「 翔平は俺の持っていないものを 全部持ってるって……。」

「 アイツ…イラつくほど わかってねぇ~なぁ(笑) 」

照れくさそうに苦笑する 翔平君が、私に向き直る。

「 俺さぁ……。アイドルグループに曲を提供する話がきててさっ。
なんか、夏香さんにもシンにも、切り出せなくて……。
そういうの……、紗奈ちゃんはどう思うのかなって……。
ホントは(笑) これを聞きにきた。」

翔平君は、やや戸惑った表情をして 両手を タバコの箱と一緒に ポケットに突っ込んだ。
< 84 / 278 >

この作品をシェア

pagetop