No border ~雨も月も…君との距離も~
「 ………紗奈……。」

「 ………………。」

シンと夏香さんは、同時に 私の方へ首を上げた。

夏香さんの 噛みついて来そうな涙目に、今ここへ、来てはいけなかった 自分に気付いたけれど、

もう……どうすることも できない。

夏香さんの感情が静かに、噛みついてくる。

ここで 鉢合わせたことを…すでに後悔。

たぶん…めっちゃくちゃ タイミング悪い。

「 紗奈ちゃん……勝手なことしないで……。」

「 だから……違うってっ。」

「 シンは、黙っててっ!」

ため息と一緒に 宙を仰ぐシンのお手上げの表情に…ホントに タイミングが、悪いんだと 確信。

「 シンは……ashの シンなのっ!

これからもっ、この先ずっと……。

あなた一人の為に、ファンの方たちを がっかりさせたくないのっ。

シンに 触らないでっ!!

マネージャーとして 言わせてもらうけど……

これから売り出す “ 商品 ” に 傷をつけるのはやめてっ。

傷を付ければ 汚れるのっ………。」

とても……激しい言葉を 夏香さんは 静かに 言う。

もっと、感情的に 噛みついてくれたなら…言い返せるのに。

この前 みたいに……。

こんな風に 静かに牙を立てられたら ……少しでも身体を動かしたら 致命傷になる。

「 ナーツーカーっ。 やめとけって。

お前、さっきから言ってること メチャクチャだぞっ。

ほら…こーゆーの、修羅場?っていうじゃん。

行くぞっ。ほら、中…入れよ。」

シンは、俯く夏香さんの背中を押して BIG4の中へと促した。

シンは 気まずそうに 少しだけ こっちを見て 夏香さんを 労るように 自分も中へと消えた。

取り残された 私は……。

夕暮れの 飛行機雲を目で追った。

グレーの雲が 早く流れて、オレンジ色の空を斑にしていく……

柔らかい小雨が 私の頬にあたった気がする。

寂しさと……不安と……そこで信頼することは、とても 残酷だということを

思い知らされる。

私の愛した人は、“ 商品 ” なのだろうか……。

輝く原石たちが、とても切なく 儚い存在に感じた。

余りにも 無機質な “ 商品 ” という 響きに、

心が泣いた。

心に……小さなヒビが入った。

傷を付ければ、汚れる。

人も物も……そうかもしれない。
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