エリート御曹司は獣でした
彼の秘密
◇◇◇

一月下旬の東京は、冷たい雨が降っている。

暖房が入り、乾燥気味のオフィスの一角には、湯気の立つ煎茶を淹れたマグカップが四つ。

八人掛けのミーティングテーブルを使用して私たち事業部のOL四人は、平和な昼食を楽しんでいるところである。


「奈々子、汁が服に垂れたよ」


そう言ったのは、私の向かいの席に座る、堀田香織。

私と同じ歳の二十五歳で、黒髪のショートボブが似合う快活な女性である。

彼女の注意で下を見た私は、「わっ!」と驚きの声を上げた。


手に持っているのは、サラダチキン。

真空パックに入れられた状態のものをそのまま持ってきたので、食べにくく、ポタポタと汁が垂れていたみたい。


今日の私はボウタイブラウスと水色のカーディガン、紺色の膝下丈プリーツスカートという服装で、スカートの右太ももの辺りが少々濡れている。

急いでチキンをテーブルに置き、ティッシュで拭きながらも、子供染みたこの失態を笑ってごまかそうとした。


「今日はお客さんのところに行く予定はないんだ。だから汚れても大丈夫」

「いや、そういう問題じゃないでしょう。どうして丸ごと持ってくる? しかもお弁当もしっかりあるのに、プラス、サラダチキンって……」
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