エリート御曹司は獣でした
隠し事はしているけれど、嘘はついていないつもりである。

信じてくれるかどうか……。

緊張して三人の顔を順に見ていたら、「そっか」と綾乃さんが笑ってくれた。


「だよね。奈々子だもんね。牛や豚、鶏ならいざ知らず、久瀬さんをゲットできるわけないとは思ってた」


香織は失礼な言い方で納得してくれて、八重子ちゃんは、「家畜が好きなんですね」と天然らしい言い方で興味を逸らしてくれた。


作り笑顔を浮かべる私は、危なかった……と心の中で嘆息する。

私も不可能だと思っているけど、万が一、久瀬さんと交際することになったとしても、社員には教えられない。

仲のいいメンバーでさえ、この反応だもの。

久瀬さんを本気で狙っている女性社員に目を付けられたら、嫌がらせされそうで怖い。

特に、乗友さんとか……。


そう考えていたら、ちょうど乗友さんの声を近くに聞いてしまった。

チラリと横を見れば、乗友さんは彼女の同期ふたりと会話しながら歩いており、その距離は三メートルほど。

コートを着てバッグを腕にかけているので、ランチに出掛けようとしているのだろう。

それはいいのだが、なぜ、こちらに向かってくるのか。

事業部のフロアは横長で、ドアは東西に二か所ある。

このミーティングテーブルを越したところにある西側のドアより、東側のドアを使用した方が彼女たちのデスクには近いはずだ。
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