エリート御曹司は獣でした
「そうよ、素敵でしょ」と、乗友さんは得意げだ。


「冬のボーナスを全額注ぎ込んでも買えそうになかったから、父におねだりしたの」

「いいなー。明美のお父さん、お金持ちで。次々と新しいものを買ってもらえて羨ましいよ」

「そういうエリカも、そのコート、あのブランドの新作よね? 私も密かに狙ってたのよ。先を越されてしまったわ」

「気づいてくれてありがとう! 春ものだから、まだ少し寒いけど、早く見せたくて着てきたんだ」


お互いの持ち物を褒め合って楽しむのは構わないけれど、歩きながらにしてくれないだろうか。

もしかして、私たちに向けて自慢しているのかと、深読みしそうになるよ……。


そう思っているのは私だけではないようで、香織も綾乃さんも、しかめ面で黙々と昼食を取っている。

八重子ちゃんだけはにこやかに、乗友さんたちに注目していた。

悪意に気づかず、イライラせずにマイペースを貫けるのは、八重子ちゃんの強みかもしれない。

そう感心した私であったが、突然立ち上がって、「私の腕時計も見てください!」と乗友さんたちに話しかけるから驚いた。
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