エリート御曹司は獣でした
すぐに警戒心を解いた私は、「ありがとうございます」とお礼を言い、「皆さんはいつもオシャレですね」と褒め言葉を返した。

すると……顔を見合わせた彼女たちが、クスクスと笑いだす。


「ごめんなさい。相田さんのことは褒めてないのに、勘違いさせてしまったかしら」とひとりが言えば、もうひとりが首を傾げて問いかける。


「紺一色のオフィススーツね……。就活時のリクルートスーツをまだ着てるの?」


最後に乗友さんが、ニヤリと口の端をつり上げて言い放つ。


「相田さんは、自慢できるものを持っていないのね。女子力が低いわ」


間に気まずそうな綾乃さんを挟んでいるけれど、腰に手を当て私だけを見下ろしてくる乗友さんに、私は「うっ」と怯んだ。


なるほど……香織たちを持ち上げていたのは、私を落とすためだったのか。

最近、久瀬さんとの接点が増えた私を目障りに思い、こうしておとしめることで、憂さ晴らしをしているのかもしれない。

こんな風に絡んでこられては困るところだが、私の場合、女子力が低いと言われて傷つくことはなかった。

紺色地味スーツを着ている理由は、午後からひとりで顧客訪問の予定があるからだけど、普段の服装にも、オシャレをしようという気持ちは持ち合わせていないのだ。

みすぼらしいのは嫌だが、清潔感があって普通に見えれば、それでいい。

それに、服や持ち物で目立つより、私はこれを自慢したい。

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