エリート御曹司は獣でした
そんな私の気持ちを知らない久瀬さんは、「なにが欲しい?」と素敵な微笑みまでつけて問いかけてくる。


「お、美味しい肉……」


心の中を忙しくしていたため、うっかり女子力の低い返事をしてしまい、ハッとした私は後悔した。


もっと女の子らしい希望を言えばよかった……。


けれども彼は呆れずに、「相田さんらしいな」と頷いて、私の耳に口を寄せる。


「次の土曜の夜、空けておいて。美味しいステーキハウスに、ふたりで食べに行こう」


甘く誘うように囁かれたら、私の鼓動は最大限にまで高鳴り、押し込んでも、期待が勝手に湧いてきてしまう。


久瀬さん、それは、デートのお誘いと捉えてもいいのでしょうか……?


顔が熱すぎて、のぼせそうになった私は、卵液の入ったボウルをひっくり返しそうになる。

「わっ!」と慌てる私に、「雑炊まだー?」と香織の呑気な催促の声がかかり、久瀬さんは隣でクスリと笑っていた。

< 118 / 267 >

この作品をシェア

pagetop