エリート御曹司は獣でした
恋人宣言。嘘は私のため
◇◇◇

久瀬さんを含めた同僚たちと鍋を囲んだ日から、ひと月ほどが過ぎた。

寒さが緩み、春の気配を感じる三月中旬の今日、私の目の前に桜が咲いているが、これはイミテーション。

開花宣言には、まだ半月ほど早いだろう。


シックなオフィススーツに身を包んだ私は、脱いだコートと紺色のショルダーバッグを小脇に抱え、都内のコンベンションセンターを訪れている。

三階のイベント会場はバスケットボールのコート四面分ほどの広さで、そこに食品加工メーカー、十数社が合同で新商品の展示会を催していた。

小売、卸売業者やマスコミが招待され、今の時点での来場客数は四百人ほどであろうか。


私は招待客ではなく、一般客として足を運んでいる。

望月フーズをはじめとした、うちの社の顧客も参加しているため、応援と、できれば新しい仕事の依頼を頂戴したいとの思いから、顧客たちのブースを回ってご挨拶しているのだ。

それを、久瀬さんとふたりで行っていた。


「久瀬さん、次はどのブースに行きますか?」

「そうだな……オリハラ食品にしようか。二年前に仕事をくれた中山さん、確か広報に異動になったと言っていたから、会場に来ているかもしれない」

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