エリート御曹司は獣でした
密かな優越感に、にやけそうになっていた私であったが、「相田さん、どう? 仕事をもらえるコツがわかった?」と爽やかに尋ねられて、ギクリとした。


「コツというより、自分がいかに勉強不足であるかがわかりました……」


久瀬さんは手に、社用のタブレットを持っている。

巧みな話術で、食品容器の耐久性、保温性、価格など、相手から改善のニーズを引き出したら、タブレットを使ってすぐさま簡単なプランニングをしてみせるのだ。

このくらいの価格で、今より優れたものを作れると見せられたら、相手は食いつかずにはいられない。

『担当部署に連絡しておきますから、後日、詳しい説明をしに来てもらえませんか?』という展開になるのだ。


それを真似しろと言われても、今の私では不可能である。

顧客からニーズを引き出しても、『確かあのファイルに、そのあたりに関する資料があったはず……あの業者の取扱商品の中に、それに合致する紙素材があったはず……』と、要望を持ち帰ってあれこれ調べてからでないとプランニングできないのだ。

久瀬さんがタブレットひとつで、この場ですぐに対応できるのは、頭の中に全てが入力されているからだろう。

しかもその大量の知識は、すぐに引き出して組み合わせることができるように、常に整理整頓、メンテナンスが完璧になされているのだ。
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