エリート御曹司は獣でした
振り向けばそれは、怖い顔をした香織で、隣には口元だけかろうじて笑みを浮かべている綾乃さんがいる。

「お、おはよ……」という私の挨拶は無視されて、「どういうことかな？」と綾乃さんに詰め寄られた。


ふたりは昨日、私のことを心配し、八重子ちゃんを使って久瀬さんに応援要請を出してくれた。

大会議室から私が戻ると、ふたりは帰らずに待っていてくれたので、昨日の時点で乗友さんたちと決着がついたことは話してある。

ただし、久瀬さんが恋人宣言したことは伏せて、今後は嫌がらせされないだろうということだけ説明したため、今朝、八重子ちゃんから交際の話を聞いて驚いたようだ。

そしてその驚きは、怒りへと移行してしまったらしい。


「奈々子、久瀬さんと付き合ってること、なんで隠してたの？」

「奈々ちゃん、私はね、嫉妬から文句を言ってるわけじゃないのよ。毎日一緒にお昼を食べているのに、教えてくれなかったことが悲しいの」


口々に責められ、冷や汗をかいた私は、「それには事情があってね。付き合っているというのは、実は嘘で……」と小声で打ち明ける。

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