エリート御曹司は獣でした
香織と綾乃さんには、初めから嘘をつくつもりはなかった。

だからこそ昨日は、恋人宣言については省いて説明したのだ。実際に交際してはいないのだから。

ひと晩経って、こんな風に噂が広まってしまうのだったら、省略せずに話しておけばよかったかな……。


「嘘なの?」とキョトンとするふたりに、もっと詳しい説明をしようとした私であったが、集団のひとりが私に気づいて、「相田さんだ!」と声をあげたから、それができなくなった。

同課の先輩男性社員に捕まえられた私は、集団の中に連行されてしまう。

輪の中心に入れられ、椅子に座っている久瀬さんの姿をやっと見ることができたが、隣に立たされた私に彼は困り顔を向けていた。


やっぱり、迷惑に思ってますよね……。


そう感じ取った私は、シュンと肩を落とし、「すみません」と小声で謝った。

「いや、怒っているわけではーー」と言いかけた彼の言葉を遮るようにして、周囲が私に話しかけてくる。


< 186 / 267 >

この作品をシェア

pagetop