エリート御曹司は獣でした
「久瀬さんが、はっきり認めないんだよ。見守ってくれって、どういうこと?」

「察してほしいと言われても、わからないよ。正直、相手が相田さんというのは意外だから、ガセネタじゃないかとまだ疑ってる」


ということは、どうやら久瀬さんは曖昧な言い方をして、質問攻撃を切り抜けようとしていたようである。

交際を否定すれば、私が乗友さんたちにいじめられると心配したためであろう。


春ものコートの胸元を握りしめた私は、これ以上、久瀬さんに迷惑をかけられないと思い、集団に向けて口を開いた。


「違うんです。私が憧れているだけで、付き合ってはいないんです」


「相田さん!」と焦り顔で呼びかけたのは、久瀬さんだ。

座ったまま私の方に向き直り、なにかを言おうとしている彼に、私は両手の平を向けた。


「私のことなら大丈夫です。なにかされても、自分で対処できます。私、これ以上、久瀬さんに迷惑をかけたくないんです」


想いは一方通行で、彼ほどの素敵な男性が、大して取り柄のない私に恋心を抱くはずがない。

その考えが根底にあって、“迷惑”という言葉を用いたのだが、自分で言っておきながら、ふられた気分になって胸が痛んだ。


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