エリート御曹司は獣でした
これでも私を食べられますか?
◇◇◇

曇り空の下、冷たい冬の風に吹かれて、私はマフラーを鼻の下まで引き上げた。

今日は土曜で、会社は休み。

今は久瀬さんの自宅マンションに向かっているところで、その目的はもちろん、ポン酢による変身体質を治すためである。


地図アプリによれば、この辺りだと思うんだけど……。


私が歩いているのは、マンションや住宅が立ち並ぶ一角で、電車の駅から徒歩五分ほどの場所だ。

もう一度、地図を確認しようと思ったら、スマホが鳴った。

道の端に避けて立ち止まり、ベージュのスタンドカラーコートのポケットに手を入れて、スマホを取り出す。

着信は、久瀬さんからのLINEメッセージであった。


【わからなかったら、駅まで迎えに行くよ】と、彼は気遣ってくれる。

それに対して、【たぶん大丈夫です。もうすぐ着きます】と返信し、地図を確認。

スマホをポケットにしまい、止めていた足を
前に進めながら、そういえば……と思い出していた。


彼の変身体質を知ったのは、三日前のことになる。

チーム会議に揃って遅刻した私たちは、『ふたりでどこ行ってたんだ?』と係長に問われた。

それは久瀬さんがうまく言い訳してくれて事なきを得たのだが、会議が終わり部署に戻ってから、フロアの隅で彼とヒソヒソ話していたら、乗友さんに睨まれてしまったのだ。
< 40 / 267 >

この作品をシェア

pagetop