エリート御曹司は獣でした
会話の内容は、私のスマホについてである。

ポン酢を口にした久瀬さんが急に苦しみだした時、救急車を呼ぼうとして、彼にスマホを取り上げられた。

彼のポケットに入れられたまま、それをすっかり忘れていて、部署に戻ってから思い出したというわけだ。

そして、久瀬さんとのコソコソとしたやり取りを乗友さんに見られてしまい、前方から歩いてきた彼女に、敵意むき出しの厳しい視線をぶつけられてしまった。


もしかすると、あの時ついでにLINE交換もしたから、私が彼の私的な連絡先を聞き出したように見えたのかもしれない。

乗友さんと違って、私は久瀬さんの彼女の座を狙ったりしないのに、ライバル認定されてしまったのか。

部署内では、必要以上に彼に近づかないように気をつけようと思いつつ、道なりに進めば、久瀬さんの姿を前方に見つけた。


彼は十五階建てほどの高さのマンション前に立ち、私を待ってくれている。

コートを着ずに、黒のニットカーディガンを羽織っただけの姿なので、寒そうに見えた。

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