エリート御曹司は獣でした
「素敵な部屋ですね!」

「そう?」


フローリングにはダークブラウンのラグが敷かれ、そこにふたり掛けの黒い革張りのソファとガラスの天板の四角いローテーブルが配置されている。

テレビボードも黒で、ダイニングスペースはあるが、食卓テーブルではなく、L字型の机と書棚が置かれていた。

机の上には通勤鞄とノートパソコン、書類や雑誌などが積まれている。

全体的に黒とブラウンで統一され、装飾品の少ないスッキリとしたリビングは、男性的な感じがした。


ふと、独り暮らしの男性の部屋にお邪魔するのは何年ぶりだろうと考え、大学三年の時以来だと気づく。

それはゼミの仲間での集まりだったので、男性とふたりきりではなかった。

短い付き合いだった元彼は実家暮らしであったため、自宅に遊びにいったことはない。

考えてみると、独り暮らしの男性の部屋でふたりきりになるのは初体験で、それを意識してしまうと、緊張して鼓動が三割り増しで速まった。


恋愛しに来たわけじゃないと自分に言い聞かせた私は、自分の気持ちを逸らそうとして話題を探す。

机に近づけば、無造作に置かれていた雑誌の表紙が目についた。


「あ、ゴルフ雑誌。久瀬さん、ゴルフが趣味なんですか?」と問いかけると、キッチンでグラスを出している彼が、普通の口調で答えてくれる。

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