エリート御曹司は獣でした
それを見た私は、若干の浮かれ気分を心の隅に追いやり、気を引きしめ直した。

まずは、ここに来た目的を果たさねば。

ふたりで肉まんを食べながら、楽しくお喋りするのは、その後だ。


久瀬さんはローテーブルにトレー上のものを置きながら、私を呼ぶ。


「相田さん、ソファに座って」


その声には、緊張が滲んでいた。

治そうという私の提案を受け入れてくれた彼だけど、大丈夫だろうかという心配は拭えないのだろう。

もし私と肉体関係を結んでしまったら……と危ぶんでいるのかもしれない。


ソファに座った私は、その心配を払ってあげようと大きく出る。


「大丈夫ですよ。私、色々と作戦を考えてきましたから。きっと三分も経たずに正気に戻れると思います。自信アリです」

「頼もしいな」


クスリと笑った彼は、ラグの上にあぐらを組む。

それから、「早速、始めようと思うけど……コート脱がないの?」と不思議そうに聞いた。

指摘の通り、暖かなリビングに入ってマフラーは外したが、コートは着たままである。

脱ぐのを忘れていたわけではなく、これも色々と考えてきた作戦のうちのひとつであった。
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