エリート御曹司は獣でした
「いい女がいるな」

そう言った彼はニヤリとして立ち上がり、ソファの私の隣に腰を下ろす。

私の手には、金属製のトレーがある。

変身前の彼に防具として渡されたそれは、狼化した彼に奪われて、ラグの上に放り投げられた。


私の中の緊張が増したが、焦ることはない。

元からトレーで殴って逃げるつもりはないからだ。


それから肩に腕を回されそうになり、それに対しては立ち上がって拒否を示す。

捕まれば力の差で負けてしまうので、一定の距離は置かないと。

そう思い、半歩下がって挑戦的な視線をぶつけたら、彼はクククと悪党のような笑い方をした。


「なぜ逃げる。抱かれるために、俺の家に来たんだろ?」

「全然、違います」

「フン。焦らすタイプの女か。そんな面倒なことをしなくても愛してやるよ。まずは邪魔なコートを脱げ」


低く甘い声の命令と、攻撃的なまでに色香を溢れさせる瞳。

心臓を跳ねらせた私は、うっかり変身後の久瀬さんも素敵だと思ってしまう。

思わず流されてみたくなったが……その気持ちをすぐに立て直し、負けまいと彼を睨んだ。

< 50 / 267 >

この作品をシェア

pagetop