エリート御曹司は獣でした
「なんだ、その目は。脱がしてほしいのか? だったら、こっちに来いよ」


ソファから伸ばされた手を避け、斜め後ろに飛びのいた私は、「言われなくても自分で脱ぐつもりでした」と答えて、手早くコートのボタンを外す。

そして、プロレスラーがリングでマントを投げ捨てるが如く、脱いだコートを後ろに放ったら、どうよとばかりに強気に言い放った。


「脱いだのは抱かれるためじゃない。あなたを萎えさせるためよ!」

「なにっ……!?」


驚いて目を見開いた彼に、私はしめしめとほくそ笑む。

コートの下に着ているのは、白いタンクトップと青いスパッツだ。

タンクトップの胸には、赤い蝶ネクタイがプリントされている。

さらに隠し持っていた、黒縁の伊達眼鏡をかければ、私も変身完了。


「ぴょっこりはん、だよ〜」


そう、これは、子供からお年寄りまで、日本中を笑わせてくれた有名お笑い芸人のコスプレである。

今日のために大手ディスカウントストアで、三千円で購入した衣装なのだ。


久瀬さん、どうですか。

これなら、襲う気は失せるでしょう!
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