エリート御曹司は獣でした
ダメダメ、絶対にダメ。

性欲狼の彼は、私が憧れている久瀬さんではない。

肉パーティーの誘いを断るしかない哀れな久瀬さんを救えるのは、私しかいないのに!


顔を横に背けてキスから逃れた私は、急いで三つめの作戦を実行しようとする。

これを聞けば、一時的に抑えられている久瀬さん本来の意識が、焦って戻ってきてくれるはずだ。


「久瀬さん、聞いてください。一週間前のことなんですけどーー」


早口で説明したのは、仕事に関することである。

望月フーズという大手食品会社の人気商品に、カップスープシリーズがあるのだが、その紙容器の保温性をもう少し高めたいという相談を、うちの部署が受けた。

担当は私で、先方に三度、足を運んで向こうの担当者と検討を重ねたのだが、コストを上げずにという前提であれば、今以上の容器はないという結論に達した。

それで、望月フーズのその件に関する私の仕事は終了だと思っていたのに……昨日、私は知ってしまった。

とある原紙加工業者が独占販売している、保温性の高い合成紙、PLU-25の価格が、望月フーズの希望に見合う額まで下がっていることを。
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