エリート御曹司は獣でした
「く、久瀬さん、仕事の話をしましょう! すぐに謝罪と訂正をした方がいいんですよね?」


慌てて問いかければ、彼はまたピタリと動きを止め、迷っているような口調で呟く。


「そう、だよな。すぐに対処しないといけない。だが、うまそうなおっぱいが……」


これは……真面目な彼と、狼化した彼の意識が入り混じっている状況なのだろうか。

きっと彼の中で、変身前の久瀬さんが意識を取り戻そうと必死に戦っているに違いない。

そう思い、心の中で誠実な彼を応援していた私であったが、残念ながら勝ったのは、狼の方であった。


纏う雰囲気にセクシーさを取り戻した彼は、前髪を色気たっぷりにかき上げる。


「それは後回しにしよう。食欲を満たすのが先だ」

そう言って、焦る私の手首を掴んで力尽くで顔の横に押さえつけると、普通サイズの私の胸に顔を埋めた。


ど、どうしよう……これ以上の作戦を考えてきていないよ。

やっぱり、トレーで殴る?


横目でトレーを探したが、手を伸ばしても届きそうにない床の上にあり、上にのられているこの状況で手にするのは不可能のようだ。
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