エリート御曹司は獣でした
「久瀬さん……？」

彼の眉間に皺が寄っているので、もしや、大した成果が得られなかったことに落胆し、治療は諦めると言われるかと危ぶんだが、どうやら違うようだ。

数秒、考え込んでいた彼は、やがてなにかに思い当たったような顔をして、私を見た。


「相田さん、望月フーズの件で、PLU－25の現在価格を間違えて先方に伝えたと言っていたよね？」

「えっ、覚えているんですか……？」

「ああ。夢の中で聞いたような感覚だが、マズイと焦った気持ちと共に覚えている」


厳しい視線を向けられて、私は冷や汗をかく。

そこは、記憶に残さなくてもよかったんですけど……。


放置していい問題でないことはわかっているが、どうせ先方も土日は休みなのだから、月曜日に対応すればいいでしょう。

久瀬さんへの報告とお叱りを受けるのも、月曜日にしたかった。


真顔の久瀬さんから目を逸らした私は、穏やかな雰囲気を取り戻そうとして、作り笑顔で肉まんに手を伸ばす。


「その件は出社してから考えますので、取りあえず、今は肉まんを……」

「いただきます」とかぶりつこうとしたのだが、久瀬さんに手首を掴まれ、止められてしまう。

そのまま手を引っ張られて、彼とともにソファから立ち上がった。

< 62 / 267 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop