エリート御曹司は獣でした
ところが、まだしばらく帰れそうにない状況に陥ってしまった。


「いやー、悪いね。催促したみたいで」


笑いながらそう言って久瀬さんの肩をポンと叩いたのは、望月フーズ、容器包装開発部の係長職に就いている男性社員、長野さんである。

四十二歳の長野さんは、中背で少々肉付きのよい体格をしており、趣味は美味しいものを食べ歩くことだと以前、聞いた覚えがある。

いつも饒舌に話し、開発より営業職の方が向いていそうな気がする人だ。

彼が、私の担当していた案件の担当者で、先ほど、商談がまとまりかけた時にこう言ったのだ。


『もう、こんな時間か。腹減ったな。そういえば最近、忙しくて外食してないな』


独り言のような口調であったが、その後にチラッと久瀬さんを見たため、そうではないのだろう。

そして久瀬さんは、『ご迷惑をおかけしたお詫びに、ご馳走させてください。この後、どうでしょう?』と誘うしかなかったというわけだ。


呼び寄せた中型タクシーに乗り込んだのは、私たち三人と、もうひとり。

長野さんの補助的な役割で、商談の場にも同席していた二十九歳の男性、杉山さんだ。
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