エリート御曹司は獣でした
店内に入れば、カウンター席の他にテーブル席が六つと、宴会用と思われる格子戸の個室が二か所設けられていた。

客席は半分ほど埋まっている。

お好きな席へと、和装の女性店員に言われた長野さんが、「ひとりで来たなら、迷わずカウンター席に座るんだが……」となぜか得意げに胸を張って話しだす。


「ガラスケースのネタを眺めたり、職人と話したり、握っている姿を間近で見られるからな。だが、今日は久瀬さんたちと話をしたいからテーブル席にしよう。どの席でも楽しめるのが真の食道楽。俺は食通ではなく、食道楽を極めたい」


久瀬さんは爽やかな笑顔で「わかります」と頷いているが、私は愛想笑いしかできない。

食道楽は、自慢げに用いる言葉ではないと思う。

それに、接待の場で極めようとするのはやめてほしい。


コートと荷物を店員に預け、いかにも仕事帰りというようなビジネススーツ姿になった私たちは、真ん中辺りの四人掛けのテーブル席に着く。

私と久瀬さんが入口側に並んで座り、久瀬さんの前が長野さん、その隣が杉山さんだ。

生ビールで乾杯した後、久瀬さんが、「お任せで握ってもらう形でいいですか?」と長野さんに確認した。

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