エリート御曹司は獣でした
スーツのジャケットを脱ぎ、腕まくりまでして食べる気満々の長野さんは、「ああ、その方がいいね」と同意する。

それから、笑顔で恐ろしいことを言いだした。


「お任せの後に、お好みで追加注文してもいいかな? この店は久しぶりだから、食べたいものがたくさんある」


杉山さんがこっそり教えてくれた通り、なんの遠慮もない発言に、私は目を丸くしたが、久瀬さんは動揺することなく、即答で了承してしまう。


「はい。どうぞお好きなものをどんどん召し上がってください」


く、久瀬さん、そんなことを言って大丈夫ですか……と心の中で問いかけた私は、彼の端正な横顔をマジマジと見てしまった。

少しの焦りも見られないので、彼の頭ではきっと経費で落とせる算段がついているのだと思われるが、あまりにも高額だと、部長に叱られそうな気がして私の不安は消えない。

女性店員に注文を伝えた久瀬さんは、それから私の物問いたげな視線に気づいて振り向き、ニコリと微笑んでくれた。

心配いらないよ、というように。

それならいいんですけど……と視線で会話をしていたら、目の前には早くも一品目の椀ものが出された。
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