エリート御曹司は獣でした
兄は勉強も運動もそこそこできる方であったが、十六歳のその頃は、頭の中の三分の二はいやらしい妄想でいっぱいだったのではないだろうか。

ベッドの下や本棚の奥に、エッチな漫画本を大量に隠していたのを、私は知っていた。


天ぷらの正体を知り、箸から落として慌てる私の反応を面白がったのは、兄だけではなかった。

お酒が入って気の大きくなった父や叔父、祖父に従兄弟と、男連中も大笑いして、俺の精力がどうだの、それを食べたら子供ができるだのと話しだした。

十四歳の少女をからかい、恥ずかしがらせて楽しむしょうもない男たちのせいで、私は白子に対して負のイメージを持ち、すっかり食わず嫌いになってしまったというわけだ。


どうしよう。

食べずに蓋を閉めてもいいだろうか……。


私が迷っていたら、それに気づいた久瀬さんが、「苦手だった? 無理しなくていいよ」と声をかけてくれる。

けれども、ホッとして蓋を閉めようとしたら、「食ってみなよ。最高にうまいから」と長野さんに言われてしまった。


「相田さんはまだ若いから、うまい白子を知らないだけだろ。安居酒屋で鮮度の悪いやつを食って嫌いになったんじゃないの? これは違うよ。騙されたと思って食ってみな。な、杉山もそう思うだろ?」

「そう、ですね……」

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