エリート御曹司は獣でした
私の向かいに座る杉山さんは、申し訳ないと言いたげな視線を私に向けつつも、上司の無理強いを止めてはくれない。

一方、久瀬さんは、なんとか助けようとしてくれる。


「自分にも苦手な食材があるので、相田さんの気持ちがわかるんです。どう頑張っても無理なものもあるんですよ。代わりに私が食べますから、無駄にはなりません」


長野さんの機嫌が悪くなることを恐れてか、久瀬さんの笑顔は少々ぎこちない。

「それより、この前来た時に食べた、あん肝がとても美味しかったんです。注文しませんか?」と長野さんの興味を逸らそうとしてくれて、久瀬さんの優しさに私の胸は熱くなった。

同時に自分の不甲斐なさを感じて、テーブルの下で左手を握りしめる。


私の仕事上のミスをフォローさせた上に、食事の席でも迷惑をかけるわけにいかない。

今の私は大人なのだから、男性のアレごときで怯んでしまうのは、情けないとも思う。

久瀬さんに余計な気遣いをさせないためにも、私はこの白子を食べなければ!


「食べます」


そう宣言してお椀と箸を持ち直した私に、久瀬さんは目を瞬かせていた。

長野さんは「よく言った!」と褒めてくれて、杉山さんは心配そうに私を見ている。

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