エリート御曹司は獣でした
握りは八貫出され、赤貝、白エビ、本マグロの三種盛りに、昆布締めのヒラメなど、どれも美味。

私がこれまで食べてきた寿司と、同じジャンルの料理だとは思えないほどの美味しさである。

その他に、塩水ウニやイクラの醤油漬けが小鉢で出され、ホタテの西京焼きは危うくほっぺたが落ちそうになった。

肉のない食事に満足したのは、これが初めてかもしれない。


お任せ握りのコース料理が全品出され、満腹になった私は食後の幸せ気分に浸っていたが、ビール三杯で赤ら顔をした長野さんが、ここからさらに張り切りだした。


「さて、お好みで頼むか」


そういえば最初にそんな話をしていたと思い出し、支払いへの不安が復活する。

店員を呼び寄せて、メニュー表を広げて長野さんがアレコレと注文している隙に、私は久瀬さんにヒソヒソと問いかけた。


「かなり高額ですけど、経費で落とせるでしょうか? 部長に叱られそうな気がするんですけど……」


すると、顔を近づけ、意図せずに私の鼓動を高鳴らせた久瀬さんが、「経費として申告する気はないよ」と囁いた。

驚きの声をあげそうになり、慌てて片手で口を押さえた私を、彼はクスリと笑う。

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