エリート御曹司は獣でした
「心配いらない。この店、俺の家族が懇意にしていてツケがきくんだ。席が空いているか電話で確認した時に、支払いは祖父のツケと一緒にするよう頼んだ。それと、今日は普通の客として俺に対応してほしいともね」

「そうなんですか……」


ここは彼の馴染みの店かもしれないと、最初に予想したことは、どうやら当たっていたようだ。

前もって店員に、得意客の扱いをしないように頼んだのは、菱丸商事の会長の孫だと気づかれたら、長野さんたちが萎縮してしまうのではないかと、気を使ったためだろう。

久瀬さん自身が、血筋の権力を振りかざすのを嫌った、という理由もありそうだ。


けれども、接待代を会長のツケにするとは、なかなかしたたかでもある。

自身の交遊費ではなく仕事上のことだから、よしとしたのかもしれないが、後で会長に叱られないだろうか?

ツケがきくと言っていたことから考えると、会長はいつも、この店での会計、数回分をまとめ払いしていると思われる。

その請求額は、私たちが今日使った金額を上乗せされても気づかないほどに、毎回高額なのかもしれない。
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