エリート御曹司は獣でした
私の推測が当たっているかは、尋ねることができない。

久瀬さんはいたずらめかしたウインクをくれてから、長野さんに声をかける。

それによって、支払いの話はこれでおしまいだと、私に伝えていた。


「長野さん、中トロの血合いはお好きですか? 握りじゃなく、芽ネギと一緒に海苔で巻いて食べるのがお勧めです」

「お、なんか通な食べ方だな。それも頼もう。久瀬さん、他にはなにがうまい?」

「ノドグロと金目鯛の炙り、煮アワビは食べるべきです。車海老の握りも頼んで、頭は焼いてもらいましょうか。香ばしくて美味しいですよ。それと……」


炭酸の抜けてしまった一杯目のビールをひと口飲んだ私は、妙に凪いだ気持ちで久瀬さんを見つめていた。


やっぱり、御曹司なんだ。

久瀬さんのプライベートを覗いて、少しだけ近づけたように感じていたけれど、また遠くに行っちゃったな……。


なんとなく寂しい気持ちになり、それはなぜかと思っていたら、追加注文を終えた久瀬さんが立ち上がった。

お手洗いに行ってくると中座した彼は、店外へ。
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