不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
一体なんの用事だろう。今夜のことを断るには、こちらもちょうどいいタイミングだけれど、ちゃんと切り出せるだろうか。

妙な緊張感を抱きながら耳をすませば、彼の口からまたしても予想外の言葉が飛び出す。


『今夜の食事の件だが……なかったことにしてほしい』

「えっ?」


決まりが悪いような調子で言われ、呆気に取られた私はフリーズした。

なかったことに……って、なんで? あんなに来させる気満々だったくせに。


『脅すようなマネをして、本当にすまなかった。金輪際、君とは仕事以外では関わらないと約束するよ』


さらに謝罪の言葉まで続けられて、拍子抜けしつつ眉をひそめる。急に身を引かれると、それはそれで不気味だ。

なにがなんだかわからないが、とりあえず長沼さんとの悪縁は切れそうなので、私も「いえ、こちらこそ失礼いたしました……」と、念のため低姿勢で謝って電話を切った。

食事がキャンセルになったのは万々歳だけれど、本当にどうしたんだろうか。

気になって仕方ないものの、間もなくして泉堂社長が出勤されたため、ひとまず意識を切り替えることにした。
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